かえるの王子サマ3
 

「ねぇレイ、なにがあったの」

さっきまでとうって変わった速さでレイは馬をかっ飛ばしていた。
私の質問に返事はない。

「ねぇってば!」
「――・・私たちのあとを何かが追いかけて来ているんだ。多分、人だ、それもかなりの大人数の」

私を抱える様にして手綱をさばきながら、レイが言った。
こんな速さで走っているのに、松明は消えず、ただ揺れているだけのおかげでレイの顔ははっきりと見える。

「恐らく私たちの後に残った馬の蹄を見ながら追いかけて来たんだ。大人数なら灯りも沢山あるだろうから」

そういいながら前を向くレイの顔は、なんだか苦虫を噛み潰したようだった。
グラドを一人置いてきたのが心配なのだろうか。
そりゃそうだよね・・・、グラドは要はしんがりになったのと同じようなものだ。

私たちを先に進ませるために。

「グラドが心配?」

思わず思ったことを口にしてしまった。あれだけ会話のやり取りに阿吽の呼吸を感じさせるんだから、付き合いも長いに違いない。
レイは、その言葉に面食らったように私を見た。すぐにあぁ、そうかといった顔になる。

「違う、あいつはまっったく心配ない」

そんなに強調しなくても・・・

「グラドも『俺の仕事だー』って言ってたろ?そうじゃない。ただ、追ってきてる人たちについて・・・ね」

そういうと、ハッと、口に手を当てて視線をそらす。
言うつもりじゃなかった言葉だったみたいだ。思わず口にしてしまうなんて、レイらしくない。
「誰か」という問いを聞かずにはいられなかった。そこまで親しい人って感じでもなさそうだし・・・。
恐る恐る聞いてみるとレイは前を向いたまま言った。

「村人だ。あの感じは多分ね」

村人・・・。村人!?

「えっ、なんで!?まさか・・・」
「いや、私もまさか、にしたいけどね。言ったろ、今人は互いを信じれなくなっているって。多分元凶となっているのは同じものだよ。ただどこの国の人々かは分からない」
「じゃ、じゃあもしかしたらレイか、グラドの国の人かもしれないじゃん!」

同じくに同士の人かもしれないのに。

「あぁ。まぁ、村人がどんな状況になっているかは見てみないと分からないが、反乱ってことはないと思う。この世界で今の時代に悪政を布いている国があるってことは聞かないからね」
「でも・・・」
「おっと由梨、例のポイントだ。馬を走らせたまま剣を刺すから、落ちないようにしっかり私に摑まっているんだよ」

レイは馬で駆けたまま、腰から剣を抜いて石像に刺す。一連の流れが一瞬で行われているように見えた。
早い。

「由梨、今度は狸だ」

石造が半回転する間、石像と同じように馬を回転させ、駆け出しに備える。
そして、ホラね、と狸の石造を指を指して教えてくれた。狸はやっぱり立体の菱形を持っていた。

「ね、レイ、あの動物たちが持って・・・ぅわっ!」

聞いてみようと思った瞬間に馬が駆け出す。レイにしっかり抱きついていなかったら重力で落ちるとこだ。

「ん?由梨なんだった?」

そしてあっけらかんと聞いてくる。

「いいー。後にする・・・」

このままじゃ舌でもかみそうだ。レイと違って慣れてないし。
ってゆーか、こんな早く馬って走れるんだなぁと感心してるところだし。

「ふむ・・・。やはり動物にも何かしらの影響はでてるみたいだ」

突如レイがそんなことを言い始めた。

「どういうこと?」
「私たちがこの森に来ると、かならず動物の足跡や、動物が移動する音が聞こえていたんだ。もちろんこの森には夜行性もいる。しかし、」
「それは・・・ないね」
「あぁ」

馬に乗って、早い速度で走っていても分かる。

異様過ぎる静けさ。

無音の森。

「あれ、じゃぁなんでレイの馬は大丈夫なんだろ・・・?」

森に住んでいる動物でさえも影響しているのに。

「多分・・・成人の折にウィザ様経由でツィーラからもらった馬だからだろう。その分、乗りこなすのには時間がかかったけどね」

グラドも同じはずだ、と付け足す。

ヴィタは城で生まれて、乗馬用に鍛えられた馬らしい。グラドとレイの馬よりはやはりどこか違うとか。
それでも乗りやすかったのは仮面のおかげか、ヴィタのおかげか。

「見えた由梨。最後の石像だ」

私はレイほど目がよくはない。それでも急速に近づいていくおかげで石像が見えてくる。
最後は鹿だった。

「あ、やっぱりある」
「ん?」

最後の立体のひし形の石像は鹿に見守られているようだった。
それぞれの動物が大事にしているあの石造物はいったいなんの意味があるのか。
でも、今の私にはそれ以上に気になっていることがあった。

「レイ、グラド遅くない?あ、でもこっちが全速力で走ってるなら追いつけないのも無理ない・・・のかな?んー・・でも・・」

グラドと離れてからそれなりに時間がたっている。いくらなんでも遅くはないだろうか。

「馬の速度はグラドの馬・・クロムのほうが早い。まぁ、心配ないだろう」

私はレイのほうを振り向いた。あまりにも淡々とした口調で、違和感もあった。
レイの表情が口調と比例していなかったから。
嘘がつけない人なんだなぁ。

「心配してないって表情じゃないけど」
「・・・・・・」

答えずに馬を走らせる。
レイは黙ったまま石造物に剣を刺した。鹿が小さく地響きを立てながら回転する。

「後は道なりに進むだけだ」
「ねぇ、レイ」

私の呼びかけに一旦馬を止める。
ようやく私と目が合った。

「まぁ、まったく心配していないっていったら、過ぎた時間が時間だけにうそになる。しかし、下手をしたら戦いになるかもしれないところに、由梨を連れたまま戻ることはできない。グラド一人で手に負えていないところへ行っても、由梨を守りきることが出来るか分からないからね」

分かるよな、と諭してくる。確かに私は足手まといだ。

でも、グラドも心配なんだ。

「じゃぁ、私はこっから歩いていくから!レイだけ引き返して様子を見てきてよ」
「なっ・・・そんなことできるわけがないだろう」
「大丈夫、大丈夫。こっから道なりに歩いていくだけなんでしょ?」
「できない」
「なんでよ」
「道なり・・と言っても危なすぎる」

それからレイと私の攻防戦が続いた。お互いに譲らない。・・・・譲れない。
無音の森の中で私たちの声が響く。
あーだ、こーだと10分以上言い争って、

「・・・・由梨、どーしても行くのか・・」
「いく」
「何度も言うが、危ないんだ」
「大丈夫」
「それに真っ暗だ」
「平気」
「・・・・分かった」

頑として譲らない私にレイが折れた。私の頑固さは筋金入りだ。これだけは誰にも負けない。

もっとも、それが欠点でもあるのだけど。

「けれど由梨、松明はもって行きなさい」
「だから・・」
「私は昔からここに来ている。感覚で道ぐらいは分かるさ。だけど由梨は違う。そうだろう?」

思わず押し黙る。悔しいけど、レイが正しい。
レイは私に松明を持たせると両腕で私を抱えて馬から下ろしてくれた。久々の地面に少し足元がふらついた。

「もうすぐツィーラの家とはいえ、気を抜いてはいけない。危ないことには変わりはないだからね」
「うん。気をつける。レイもね」
「・・誰に向かって言ってるんだ?」

フッと笑うと私の頭を2,3度軽く叩いて馬を引き返して行った。
レイの姿は、すぐに暗闇に溶け込んで姿が見えなくなった。

「さて」

唇を真一文字に結ぶ。レイが行った方向に背を向ける。

怖いことは怖いけど、そんなこと言ってられないし、自分で決めた。

私は鹿の石造を通り越し、1人で歩き始めた。

 

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